温泉入門

●温泉とは?

 火山列島である日本には、2006年3月現在、3,162ヵ所の温泉地があり、27,866ヵ所の源泉が確認されている。地上に湧き出ている温泉もあれば、地下何千メートルというボーリングにより、やっと噴出した温泉もあり、ひとえに「温泉」と言ってもその種類はいろいろであり、中には首を傾げたくなるものもある。

 そもそも温泉とは、地中から湧き出る、①温水 ②鉱水 ③水蒸気 ④炭化水素を主成分とする天然ガスを除くその他のガス のいずれかであり、条件①:『泉源の水温が摂氏25度以上のもの』、もしくは条件②:『温度に関係なく、下記19種の成分のうち、どれか1つが限界値以上含まれているもの』という、どちらかの条件を満たしているものをいう。逆に言えば、この条件さえ満たしていれば、すべて「温泉」と成りえるのである。

 つまり、成分的にただの水であっても、25℃以上あればそれは「温泉」となり、また逆に冷たくても、19種の成分のうち1つでも限界値以上含まれているものがあれば、それは列記とした「温泉」となるわけだ。まずはこのことを正確に理解して頂きたい。

 そしてもう一つのポイントは、ボーリングによりどんどん深く掘っていけば、地熱により水温は上昇するという事実である。一概には言えないが、掘削深度による水温の上昇は、100mで2~3℃とされている。つまり1000mボーリングすれば、地表水温に20~30℃プラスした水が得られるわけで、それだけで温泉と成りえるのである。

 もちろんそこに水脈があることが前提だが、事実こうして掘られた温泉は数多く存在し、近年の温泉ブームにより、この手の温泉が急増しているのも事実である。これらすべてに?マークを付けるわけではないが、数千万をかけ、地底奥深くから無理やり組み上げているような温泉がどんなものなのか、入る側も正しく温泉というものを学ぶ必要がある。

●19種の成分一覧
  物質 含有量(1Kg中)
1 溶存物質(ガス性のものを除く) 1000mg以上
2 遊離二酸化炭素(CO2) 250mg以上
3 リチウムイオン(Li+) 1mg以上
4 ストロンチウムイオン(Sr++) 10mg以上
5 バリウムイオン(Ba++) 5mg以上
6 フェロ、フェリイオン(Fe++,Fe3+++) 10mg以上
7 第一マンガンイオン(Mn++) 10mg以上
8 水素イオン(H+) 1mg以上
9 臭素イオン(Br-) 5mg以上
10 ヨウ素イオン(I-) 1mg以上
11 フッ素イオン(F-) 2mg以上
12 ヒ酸水素イオン(HAsO4–) 1.3mg以上
13 メタ亜ヒ酸(HAsO2) 1mg以上
14 総硫黄(S) 1mg以上
15 メタホウ酸(HBO2) 5mg以上
16 メタケイ酸(H2SiO3) 50mg以上
17 炭酸水素ナトリウム(NaHCO3) 340mg以上
18 ラドン(Rn) 20以上(100億分の1キュリー単位)
19 ラジウム塩(Raとして) 1億分の1mg以上

●療養泉とは?

 温泉法による「温泉」の定義とは別に、泉温、成分量などから、特に治療の目的に供しうるものを「療養泉」として区別している。その基準は、環境省の「鉱泉分析法指針」により定められており、条件①:『泉源の水温が摂氏25度以上のもの』、もしくは条件②:『温度に関係なく、下記に掲げる物質どれか1つが限界値以上含まれているもの』となっている。

 一般的に知られている泉質名表記は、「療養泉」に与えられるものであり、療養泉の規定に達しないものは、泉質表記が無かったり、単なる温泉となっているケースが多いようだ。

●療養泉の成分一覧
  物質 含有量(1Kg中)
1 溶存物質(ガス性のものを除く) 1000mg以上
2 遊離二酸化炭素(CO2) 1000mg以上
3 銅イオン(Cu2+) 1mg以上
4 総鉄イオン(Fe2+,Fe3+) 20mg以上
5 アルミニウムイオン(Al3+) 100mg以上
6 水素イオン(H+) 1mg以上
7 総硫黄(S) 2mg以上
8 ラドン(Rn) 30以上(100億分の1キュリー単位)



    




●泉温による分類

 現在の「温泉法」では、「泉温」により4つの分類が行われる。すでに説明したように、泉源で摂氏25℃以上あれば「温泉」となりうるわけで、実際には体温よりも遥かに冷たい温泉も存在する。泉温による分類では、34℃以上~42℃未満のものを狭義の意味での「温泉」としており、42℃以上の「高温泉」と、25℃以上34℃未満の「低温泉」を含めたものを、広義の意味での「温泉」と定義している。

 また、25℃未満のものを「冷鉱泉」として大きく分けて分類しており、これは前述の通り25℃未満でも特定の物質が規定量以上含まれているものである。30℃にも満たない体温よりも冷たい温泉を、一般的に「温泉」と呼ぶかどうかは?だが、分類上は25℃がひとつの境となっている。療養泉における泉温の分類も、同じくこの25℃を境に、「冷鉱泉」と「温泉」に分けられている。

 では一番良い源泉の温度は?となると、これが難しい。人間の体温より低ければ、他の高温泉とブレンドできる場合を除き、加温しない限り通常は喜ばれない。ぬる湯や冷鉱泉もあるが、宿に泊まりそれしか無ければ、やはり客足は遠のく。その結果、当然ながら湯舟の湯は泉源付近よりも劣ることとなる。

 逆によく100℃近い高温の源泉が湧く温泉宿なんかで、それをPRしているところがあるが、泉温は高ければ良いということではない。冷静に考えればわかることだが、体温よりも高すぎると、当然ながら加水するか、外気に触れさせ自然に冷めるのを待つか、なんらかの方法で温度を下げる必要がある。すべての成分が影響を受けるとは言えないが、一般的に外気に触れれば触れるほど、時間が経てば経つほど、酸化したりして鮮度はどんどん落ちていく。また加水しても成分は薄まるわけで、いずれにしても効能は泉源付近よりも落ちる。

 では体温よりも少し熱いくらいが良いのか…となると、湯舟ではそれが最適でも源泉の温度となると、そう簡単にはいかないのである。泉源から湯舟までの距離や季節による外気温の変化、暑さ寒さによる人間の体感温度の違いなど、快適な入浴を楽しむためには様々な要素が絡み合う。またその日の入浴者数や時間帯によっても微妙に異なってくる。これが温泉の難しいところであり、やっかいなところでもあり、源泉の数値比較には現れない温泉の奥深さ・難しさなのである。

 それゆえ自分で水道水で調節してくださいという宿も出てくるわけで、浴槽の下から一年を通して適温の湯がどんどん湧いているところを除けば、源泉の泉温を鑑みて、様々な条件下で最高の湯でもてなそうとしてくれる専属の湯守が必要となるのである。

 尚、プロが選ぶ温泉宿『名湯・秘湯★百湯』のグラフにおける長方形のバーは、主たる泉質の泉温域を示しており、▲は一部の泉質や一部の宿などで見られる泉温域を示す。

●泉温による分類
1 冷鉱泉 ~ 25℃未満
2 温泉 低温泉 25℃以上 ~ 34℃未満
3 温泉 34℃以上 ~ 42℃未満
4 高温泉 42℃以上 ~

液性による分類

 温泉は、一般的にpH値と呼ばれる「水素イオン濃度」により、5つに分類されている。わたしもそうだが、場合によって「強酸性泉」や「強アルカリ性泉」という基準値を設けて、7段階に分類するケースも広く見られる。温泉には、様々な成分が含まれているため、その成分の違いにより、酸性の温泉もあれば、アルカリ性の温泉もあり、美人湯で有名な「うなぎ湯」などは、入浴時になめらかで肌がヌルヌルするが、これらはアルカリ度が強い温泉とされている。

 液性を知ることがなぜ大切なのかは、後々お肌のトラブルを起こさないためであり、一般的に上がり湯には温泉を使う方が良いとされているが、強酸性の温泉や強アルカリ性の温泉の場合は、肌の緩衝作用が弱い方や肌荒れが心配な方にとっては、これが災いする。湯上がり後にお肌のトラブルを起こさないためにも、真水で流した方が良い。
 前提として、自分の体質を知っておくことが重要だが、せっかくの温泉旅行で思わぬトラブルに見舞われないように、温泉の液性を把握してから湯舟に浸かることをすすめる。

 尚、プロが選ぶ温泉宿『名湯・秘湯★百湯』のグラフにおける長方形のバーは、主たる泉質の液性域を示しており、▲は一部の泉質や一部の宿などで見られる液性域を示す。

●水素イオン濃度による分類
(強酸性泉) (~ pH 2.0未満)
1 酸性泉 ~ pH 3.0未満
2 弱酸性泉 pH 3.0以上 ~ pH 6.0未満
3 中性泉 pH 6.0以上 ~ pH 7.5未満
4 弱アルカリ性泉 pH 7.5以上 ~ pH 8.5未満
5 アルカリ性泉 pH 8.5以上 ~
(強アルカリ性泉) (pH 10.0以上 ~)

●浸透圧による分類

 温泉は「溶存物質の総量」と「凝固点」(氷点)による浸透圧により分類されている。浸透圧とは、辞書では「半透膜を境にして溶液と溶媒とが接触し、浸透の現象が起こるときの両方の圧力の差」などと書かれているが、ザクっと言えば、濃度の異なるものどおしが、同じ濃度に近づこうとする力だ。

 温泉の浸透圧による分類は3段階となっており、人間の細胞液(8.8g/kg)とほぼ等しい浸透圧を持つものを「等張泉」とし、それよりも高いものが「高張泉」、低いものが「低張泉」となっている。「高張泉」は人間の体よりも浸透圧が高いため、温泉の成分物質が体内へと浸透されやすくなる。逆に「低張泉」では、主に水分が体内へと浸透されやすくなる。

 一見「高張泉」の方が、体に良くて効果が大きいように思えるが、実際には「高張泉」はかなり刺激の強い温泉となるので、特に皮膚の弱い人はトラブルの原因となる。またそうでなくとも「湯あたり」「湯さわり」になるケースもあり、長く浸かったり、一日に何度も繰り返し入ると、その危険性はさらに増すこととなる。このあたりが温泉の奥深さ・難しさでもあり、あくまでも自分の体に合った温泉を選ぶことと、適度な利用を心掛けることが必要だ。

●浸透圧による分類
    溶存物質総量 凝固点
1 低張泉 8g/kg未満 -0.55℃以上
2 等張泉 8g/kg以上 ~ 10g/kg未満 -0.55℃未満 ~ -0.58℃以上
3 高張泉 10g/kg以上 -0.58℃未満

泉質による分類

 温泉ブームが訪れて以来、全国各地の温泉地を巡る方は急増したが、なかなか「泉質」まで気にして温泉地を選ぶ人は少ない。逆に「美人の湯」「美肌の湯」「白濁の湯」などという言葉にはすぐに惹かれ、その言葉だけで温泉地を選ぶ人は多いようだが、いざ訪れてどうかというと、やはり泉質までは気にしていないようだ。

 泉質は、時代とともに分類方法や表示方法が見直されてきており、素人にはわかりにくい世界でもある。現在も新しいルールづくりや見直しが叫ばれており、温泉施設により表示方法がまちまちであったり、新旧入り乱れての泉質表示が混乱を招いたりしている。

 泉質は、古くは17種類に分けられていた。その後1976年に11種類に、1979年に9種類に分類されるようになったが、専門家や化学に強い人間には非常にわかりやすい「イオン表示」が、また混乱を招く結果となってしまった。より正確な表示を心掛けた結果が、皮肉にも混乱を招いてしまったのである。

 そのうえ分類と表示は異なり、掲示用には11種類の泉質名があることや、「新泉質名」として、本来の個々の泉質名とは別に、分類上の9種類のくくりが「新泉質名」とされ表記されることが多いこと、また昔ながらの11種類の「旧泉質名」の方が馴染みやすく一般人にはわかりやすいこと、さらには「療養泉」の分類が「新泉質名」の分類と混同されやすいこと等々、とにかくここにこうして書いているだけでも、難しく紛らわしくとても一般人には理解できないものだ。偽装問題などもあり、本来一般人にとってわかりやすい表示が前提となるはずだったが、いつしか一般人の存在はどこへやらという感じとなり、その状況は残念ながら今も続いている。

 現在行われている法整備により、定期的な泉質調査とともに、一般人にもわかりやすい表示ルールが徹底されることを期待したいが、何をするにもお金がかかることであり、さらには泉質区分の新たな改正問題も浮上しており、なかなか進まないようだ。

 ちなみに「新泉質名」のイオン表示の方法だが、「-」(ハイフン)の前が陽イオン(+)で、後ろが陰イオン(-)となっている。それぞれ成分の多い順に物質名が並んでおり、単に「塩化物泉」というよりは、「ナトリウム・カルシウム-塩化物・炭酸水素塩泉」という方が、専門家にはどのような物質が中心の温泉なのかわかりやすいというわけだ。一般人にとっては、やはり昔ながらの「食塩泉」の呼び名の方がわかりやすく親しみもあるのだが・・・

 尚、プロが選ぶ温泉宿『名湯・秘湯★百湯』の泉質表示における、オレンジ色に黄文字は代表的な泉質を示し、薄紫はそれ以外の泉質を示している。表示が無いものは、その泉質が無いことを示す。浴用効能の表示も同じである。

●泉質表示
掲示用泉質名 旧泉質名 新泉質名
①単純温泉 ①単純温泉 ①単純温泉
②二酸化炭素泉 ②単純炭酸泉 ②単純二酸化炭素泉
③炭酸水素塩泉 ③重炭酸土類泉 ③炭酸水素塩泉
④重曹泉
④塩化物泉 ⑤食塩泉 ④塩化物泉
⑤硫酸塩泉 ⑥硫酸塩泉 ⑤硫酸塩泉
⑥含鉄泉 ⑦鉄泉 ⑥鉄泉
⑧緑礬泉
⑦含アルミニウム泉
⑧含銅-鉄泉
⑨硫黄泉 ⑨硫黄泉 ⑦硫黄泉
⑩酸性泉 ⑩酸性泉 ⑧単純酸性泉
⑪放射能泉 ⑪放射能泉 ⑨放射能泉



    




●かけ流しとは?

 「美人の湯」「美肌の湯」などという言葉とともに、温泉選びをする上で多くの人が気にし、よく耳にする言葉が「かけ流し」だ。源泉そのままの湯を湯舟に流しいれ、排出される湯を再利用しないというのが「かけ流し」とされている。循環式と対をなすものだが、果たしてこの言葉をどれだけの人が正しく理解しているのだろうか。

 この言葉には、実に多くの落とし穴が潜んでいる。そのひとつが「かけ流し」と「源泉かけ流し」、「源泉100%かけ流し」を同じモノと捉えている方が多いということだ。「かけ流し」というだけでは、源泉そのものをかけ流しているのか、消毒剤や入浴剤などの添加剤が加わっている湯をかけ流しているのかわからない。

 また一番多い間違いとして、「源泉かけ流し」=「源泉100%かけ流し」= 加水も加温もなく、源泉そのものが湯舟へと注ぎこまれている・・・と思っている方が多いことである。
「源泉かけ流し」は、施設によりまた使う人間によりそのニュアンスや使われ方が異なり、言葉の意味そのものからすると、加水・加温の有無は問われない。特に加温に関しては明白で、多くの施設が加温していても「源泉かけ流し」と謳っている。もちろん明確な定義が無いわけで違法ではない。むしろこの「源泉かけ流し」の言葉だけで、多くの温泉ファンが飛びつくのだから、利用しない手は無いのである。

 これに対して、高温な源泉を加水して薄めたり、冷鉱泉を加温したりする「源泉かけ流し」でないことをアピールするべく登場した言葉が、源泉そのものを何もせずに湯舟へと注ぎこんでいるとされる「源泉100%かけ流し」なのだが、この言葉は広く認知された用語ではなく、また「源泉かけ流し」同様正しく定義されている言葉でもない。
 温泉の鮮度という点からすると、この「源泉100%かけ流し」で、さらに引湯ではなく自家源泉であれば尚良く、それが湯舟のすぐそばや湯舟の下から自噴していれば最高の鮮度となる。さらに言えば、露天風呂よりも内湯の方が、酸化が進まず良い状態の湯であると言えるだろう。

 しかしながら、源泉の噴出量や温度の問題、温泉成分が湯舟などに付着して石化したり、湯の花が汚く感じたりするなどの見栄えの問題などもあり、実際には源泉をそのまま100%湧き出した状態で利用している施設は、わずか10%足らずだとするデータも公表されている。多くの方が山あいの温泉のイメージとして、「源泉かけ流し」という言葉に憧れを持つものだが、実際にはその言葉の意味するもの通りの温泉は少ないというのが現実だ。

 そしてもう一つの落とし穴が、「かけ流し」がかえって湯舟の湯を悪くしているケースだ。レジオネラ菌の発生問題などにより、お湯の交換や湯舟の清掃、塩素などによる殺菌など、衛生管理上の問題が騒がれているが、「かけ流し」なら衛生管理上問題がないのか・・・というとそうでもないということだ。

 「かけ流し」に対して、湯舟から溢れ出た湯を再利用しているのが「循環温泉」でその方法は様々だが、一見循環温泉の方が衛生上悪いような気がするが、一概にそうとも言えないのである。
 環境省から2005年3月に、温泉利用者向けに出された通達にも、『…「循環ろ過方式」か「源泉かけ流し方式」かについては、どちらの方式が優れているということは一概には言えません。個々の温泉の入浴時の状況は、新鮮な温泉の供給量、利用者数や浴槽の衛生管理状況などによって異なるからです。また、適切な維持管理に基づく循環ろ過装置の使用は、温泉資源の保護、衛生的な入浴状態の確保の観点から重要な手段であることも理解しておく必要があります。…』となっており、「かけ流し」の量によっては、お湯の回転率が悪く不衛生であり、湯舟が大きくても、限られた湧出量の温泉では、回転率が下がり不衛生であると暗に指摘している。

 自宅のお風呂で、家族みんなが入った後に湯舟に浮かぶモノを見れば、お湯の回転率が悪いとどうなるかはすぐに理解できるはずである。また小さな浴槽に大勢の人が入っていれば、それなりに汚れもひどい訳だから、単純に「かけ流し」か「循環式」かということだけで、どちらが衛生的かということは決めきれないことが理解できる。

 衛生管理上の問題は、新鮮な温泉の供給量、湯舟の大きさ、利用者数により大きく影響を受けることはお分かりかと思うが、皮肉にもテレビや雑誌で話題となれば多くの人が同じ湯を求め訪れるわけで、これらがどう作用しているのかは、その施設の人間にしかわからない。もしテレビや雑誌で話題のヌルヌル・スベスベのpH値の高い人気の美肌の湯が、回転率が悪く不衛生な湯となっていたら・・・と思うとゾッとする。鮮度が無くずーっと循環しているような湯舟も考えようだが、衛生上どちらが良いかは、正しく見極めなくてはならない。

 もうお分かりかと思うが、ひとえに「かけ流し」と言っても、その意味するところは広範囲にわたり、また人気さゆえに毎日小さな浴槽に大勢の人が出入りし、おまけに湯口から注がれる源泉はチョロチョロ…というような温泉施設では、「かけ流し」のイメージとは程遠く、源泉本来の効果は疑わしいばかりでなく、衛生上も問題なのである。湯口から注がれる温泉を、時間軸を無視しある一点で比較するならば、それは湧出時の温泉力の劣化が少ない「かけ流し」の方が良いのは当然だが、それだけで語れないのが温泉の奥深さでもあり、大きな大きな落とし穴なのである。

●天然温泉とは?

 「かけ流し」かどうかということと同じくらい、その響きにみなさんが敏感になっている言葉が「天然温泉」だ。「天然温泉」と聞くと、そのほとんどの方が、自然のまま、源泉のままのお湯が楽しめる・・・と思いがちだが、これが一番の落とし穴で、実際にはこの「天然温泉」の定義は、みなさんのイメージとは程遠い内容となっており、以前から問題となっている。

 「天然温泉」とは、そもそも1976年に「日本温泉協会」が「温泉法」で定めた源泉を利用している施設に表示を認めたもので、湧き出た源泉がその後どのようにされようとも、元が「温泉法」で定められた源泉であれば、すべて「天然温泉」と表示してよいということになっていたのである。

 しかしながら、「天然」という本来の言葉の意味と、実際には手が加えられた湯であるという現実とのギャップが問題となり、加水の有無やかけ流しか循環式かなどの、温泉の利用形態に関する表示の改正を目的に、2003年4月に「天然温泉表示制度」が後から追加導入されたわけだ。
 これにより、今までわかりにくかった「温泉の利用形態」を把握できるようになり、一般人でもどのような状態の温泉なのかがわかるようになった。だが一度広まった「天然温泉」という言葉の表示そのものについては、小手先の改善ではどうしようもなく、未だにこの言葉は一人歩きをしている。

 まだピンとこない方のために、繰り返しておくが、「天然温泉」=「源泉100%かけ流し」というのは論外で、温泉法第2条に規定された温泉は、例外なくすべて天然温泉であり、天然温泉以外の温泉はないということだ。つまり温泉施設はすべて天然温泉ということだ。

 ただ現在は、正式に「天然温泉」を名乗るためには利用許可を受けなければならず、許可を受けるためには温度や含有物質の量などの審査があり、クリアした施設にだけ日本温泉協会が認定した天然温泉の浴場だという証である「天然温泉表示看板」が発行されることになっている。そしてその温泉利用証には、温泉の利用形態に関する給排湯方式や加水・加温の有無、添加剤についての項目があり、それによりどのような温泉なのかが分かるようになっている。

 だが実際には、一度広まったものを統制することは難しく、「天然温泉」という言葉は、もはや日本温泉協会だけの専有物ではなく、一人歩きは続いているのである。この問題を解決するには、利用者が正しい知識を身につけるしかない。

 ≪天然温泉表示制度≫

 ●「源泉名・引湯方法」の表示
 ●「源泉所在地」の表示
 ●「泉質・泉温」の表示
 ●「源泉の利用形態」の表示
   ・循環…完全放流式、放流一部循環慮過式、循環慮過式などの表示
   ・加水…加水の有無の表示。有りの場合は、その目的の明記。
   ・加温…加温の有無の表示。

 ●5項目について、適正度・自然度の目安を、三段階で表示
   ・源泉・引湯…源泉の湧出状況や引込み距離と引湯方法等を審査。
   ・泉質…源泉が、温泉なのか、さらには療養泉なのかを審査。
   ・給湯方式…湯舟において、放流式か循環式か等を審査。
   ・加水の有無…加水の有無と、温度調整のためか等を審査。
   ・新湯注入率…1時間あたりの新湯量を湯舟の容積比により審査。