温泉入門「泉質による分類」

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♨ 泉質による分類

泉質による分類 温泉入門 泉質による分類

温泉ブームが訪れて以来、全国各地の温泉地を巡る方は急増したが、まだまだ「泉質」まで気にして温泉地を選ぶ人は少ないようだ。逆に「美人の湯」「美肌の湯」「白濁の湯」などの言葉に踊らされて温泉地を選ぶ人は多いように思えるが、いざ訪れても詳しい泉質まで気にする人はやはり少ない感じだ。

泉質は、時代とともに分類方法や表示方法が見直されてきた。古くは 17種類 に分けられていたが、1976年に 11種類 に、1979年に 9種類 に分類されるようになった。

その後「掲示用泉質名」が登場し、1982年に 11種類 に、さらに2014年の「鉱泉分析法指針(平成26年改訂)」により、わかりにくかった ⑦含アルミニウム泉 ⑧含銅-鉄泉 が消え大部分が ⑦含鉄泉 に吸収され、今まで ④塩化物泉 に括られていた ⑤含よう素泉 が独立して 10種類 へと目まぐるしく変わってきた。

また、泉質名は療養泉の基準に満たない温泉には無く、それらは温泉法上の温泉、温泉法第2条に該当する温泉、ただの温泉などと呼ばれ、単純温泉ですらない。

泉質名の変遷
掲示用泉質名 旧掲示用泉質名 旧泉質名 昔ながらの旧泉質名
10種類 11種類 11種類 17種類
①単純温泉 ①単純温泉 ①単純温泉 ①単純温泉
②二酸化炭素泉 ②二酸化炭素泉 ②単純炭酸泉 ②単純炭酸泉
③炭酸水素塩泉 ③炭酸水素塩泉 ③重炭酸土類泉 ③重炭酸土類泉
④重曹泉 ④重曹泉
④塩化物泉 ④塩化物泉 ⑤食塩泉 ⑤食塩泉
⑤含よう素泉 (含ヨウ素-食塩泉)
(含臭素・ヨウ素-食塩泉)
(含ヨウ素-食塩泉)
(含臭素・ヨウ素-食塩泉)
⑥硫酸塩泉 ⑤硫酸塩泉 ⑥硫酸塩泉 ⑥純硫酸塩泉
⑦正苦味泉
⑧芒硝泉
⑨石膏泉
⑦含鉄泉 ⑥含鉄泉 ⑦鉄泉 ⑩鉄泉
⑪炭酸鉄泉
⑧緑礬泉 ⑫緑礬泉
⑦含アルミニウム泉 (含明礬・緑礬泉 等) ⑬明礬泉 (主に)
⑧含銅-鉄泉 (含銅・酸性緑礬泉 等) (含銅・酸性緑礬泉 等)
⑧硫黄泉 ⑨硫黄泉 ⑨硫黄泉 ⑭硫黄泉
⑮硫化水素泉
⑨酸性泉 ⑩酸性泉 ⑩酸性泉 ⑯単純酸性泉
⑩放射能泉 ⑪放射能泉 ⑪放射能泉 ⑰放射能泉

表には無いが、現在使用されている「ナトリウム・カルシウム-塩化物・炭酸水素塩泉」といった イオン表示 による「新泉質名」が登場してからは、炭酸泉や重曹泉・正苦味泉・石膏泉など「旧泉質名」に慣れ親しんだ人からはただでさえ難解な上に、「新泉質名」と「掲示用泉質名」を分けたことにより、より複雑なものとなってしまった。

ちなみに「新泉質名」のイオン表示だが、ハイフンの前が陽イオン(+)で、後ろが陰イオン(-)となっている。それぞれ成分の多い順に物質名が並んでおり、単に「塩化物泉」というよりは「ナトリウム・カルシウム-塩化物・炭酸水素塩泉」という方が、どのような物質が中心の温泉なのかがわかりやすい…というのが、専門家の見解だ。

だが化学好きな人を除けば、一般庶民にとっては物質の羅列はあまり意味がなく、「塩化物泉」の方がシンプルであり、時に昔ながらの「食塩泉」の方が親しみやすくイメージしやすかったりするわけだ。

2007年に温泉成分分析の掲示が義務付けられてから早十数年が経ったが、依然として温泉施設の表示方法がまちまちだったり、新旧入り乱れての泉質表示が行われているのはこのような理由からであり、これが余計な混乱を招いている。

立場により何がわかりやすいかは異なるわけで、違いがわかる人間からすれば異物が混ざることは気持ち悪いものだが、わからない人間からすれば意味のない分類はただ煩雑になるだけだ。

単純に考えてみて欲しい。観光客に「ここの温泉の泉質は?」と問われ何と答えたらよいのだろうか?

より正確な温泉分析書にある長々としたイオン表示の「新泉質名」で答えるのがよいのか、シンプルな「掲示用泉質名」で答えた方がよいのか、それともご年配の方なら重曹泉とか明礬泉など「旧泉質名」で答えた方がイメージしやすく親切なのか…と。

こうして書いているわたし自身、何が正しいのかわからない。

またこんな混乱も生じている。10年ごとの定期的な温泉成分分析が義務付けられたことにより、源泉によっては前回と成分比率が微妙に変わり、半世紀にわたり硫黄泉の名湯として知られたお湯が、ある日突然単純温泉に泉質名が変わってしまったというケースだ。

温泉成分が根本的に変わったわけではない。今回の検査で、ほんの少し基準値の範囲に満たなかっただけで、掲げられた看板を下ろしPRも止め、それでもテレビや雑誌で紹介されたキャッチを見て訪れた人から、嘘つき呼ばわりされてしまうのか…。

温泉利用者のために、より正確な表示を心掛けた結果が、皮肉にもさらなる混乱を招く結果となってしまったのである。

泉質偽装問題などの観点から言えば、これらの改正は全くもって正しいことなのだが、なぜかしっくりこないのは、本来庶民にとってわかりやすい泉質表示が前提だったはずの改正が、一般人の存在がどこへやらという感じになってしまっている所にある。

温泉学の立場、化学的な観点、効能から見た分類、そして分類した場合の実際の温泉地の分布等、見方や立場により専門家でも意見が分かれ様々な要素が錯綜するのが泉質だ。ここに 泉質掲示のパラドックス が潜む。

温泉利用者のために、より正しい温泉情報を伝えたいと正確性を求めれば求めるほど、どんどん泉質名が細分化されてしまい、温泉を利用する一般庶民にはわかりにくくなってしまうという事実だ。

それゆえ今度は「掲示用泉質名」として、試行錯誤しながら10種類へとまとめたが、皮肉なことにこれなら昔ながらの17種類の「旧泉質名」の方がわかりやすかった…という声も聞かれる。

あまり触れたくないが、「新泉質名」「旧泉質名」という言い方ですら改正を踏まえれば、「旧新泉質名」とか「旧旧泉質名」となってしまうものがあり、「掲示用泉質名」ですら冒頭に書いたように「旧掲示用泉質名」が存在する。

一見素人にもわかりやすいようで、非常にわかりにくいのが、泉質の世界なのである。

泉質に限ったことではないが、既知のものを上書きすることは容易なことではなく、机上で決めただけではなかなか浸透しない。

本当に広く知れ渡るようにするためには、子供の頃より教科書で教えて、その世代が育ってゆくことを待つしかないのかもしれない。

尚、プロが選ぶ温泉宿『名湯・秘湯★百湯』の「掲示用泉質名」による泉質表示では、濃い紫に金文字がその温泉地の代表的な泉質を、薄紫に白文字がそれ以外の泉質を、白地に薄文字がこの温泉地には無い泉質を示している。またその下に代表的な「新泉質名」が示されている。



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